√2 を無限回累乗してみる

おととい、会社の同僚から、
 \sqrt{2}^{\sqrt{2}^{\sqrt{2}^{{\sqrt{2}^{\sqrt{2}^{\sqrt{2} \dots}}}}} = 2 (※)
という等式が成り立つことを教えてもらいました。
無理数乗という "極限操作" を無限回行うと、また元の値に戻る、というのが何か面白いですよね。
彼から、「どう証明するのか?」と質問されたので、ぼくなりに証明を付けてみました。
急いで書いたので間違いがあるかもしれないけど、興味のある方はどうぞ。


(※) は、数学的に定式化すると、次のように書けます。

主張 1


実数列
 \{I_n\}_{n \geq 1}
は、以下の 2 つの条件を満たすものとする。
(1) I_1 = \sqrt{2}
(2) 任意の n \geq 1 について、
 I_{n+1}= \sqrt{2}^{I_n}
が成り立つ。


このとき、次が成立する。
 \lim_{n \rightarrow \infty} I_n = 2

これを証明します。

証明

先ず、実数列  \{I_n\} \quad (n \geq 1) n \rightarrow \infty で収束することを示す。 そのためには、次の (A)、(B) を示せばよい *1

(A) 実数列  \{I_n\} \quad (n \geq 1) は狭義単調増加列である。


(B) 任意の n \geq 1 について、
 I_{n} < 2
が成り立つ。

(A)、(B) 共に n についての帰納法で証明できるので、(A) についてのみ付けてみます。

(A) の証明

n についての帰納法

n = 1 のとき。

 I_{2} = 2, \quad I_{1} = \sqrt{2} より成立は自明。

n のときの成立を仮定し、 n+1 のときの成立を示す。

 I_{n+1} > I_n より、
 \sqrt{2}^{I_{n+1}} > \sqrt{2}^{I_n} が成立するが、(2) より、この式は
 I_{(n+1)+1} > I_{n+1}
に他ならない。 【(A) の証明 終】


これにより、
 \lim_{n \rightarrow \infty} I_n = \alpha
を満たす実数  \alpha の存在は示せた。あとは  \alpha が 2 に等しいことを示す。
いま、(2) の式を  n \rightarrow \infty で極限を取ると、
 \alpha = \sqrt{2}^{\alpha}
が得られる。この方程式を解くと、
 \alpha = 2, 4
であるが、(B) より  \alpha = 4 ではない。
これで、
 \lim_{n \rightarrow \infty} I_n = 2
が証明された。【証明 終】




まぁ、(※) 式のおどろおどろしさに惑わされずに、素直に漸化式を立てたら解けちゃいますね。


でも、主張 1 は、もっと一般的な形で書くことが出来ます。

主張 2


1 より大きい実数  a に対し、実数列
 \{I_{a, n}\}_{n \geq 1}
は、以下の 2 つの条件を満たすものとする。
(1) I_{a,1} = a^{1/a}
(2) 任意の n \geq 1 について、
 I_{a, n+1}= (a^{1/a})^{I_{a,n}}
が成り立つ。


このとき、次が成立する。
 \lim_{n \rightarrow \infty} I_{a,n} = a

主張 2 は主張 1 の  a = 2 のヴァージョンになります。
主張 2 でも、主張 1 の証明で用いた (A)、(B) と同様のことが成立するので、主張 1 と全く同じ方針で証明することが出来ます。

ちなみに

個人的には、興味が「√2 を無限回累乗する」というところから逸れてしまってて、このタイプの数列がどんな条件で収束するか?ってのを調べてみたいですね。
具体的に書くとこんな感じ。

宿題


1 より大きい実数  t に対し、実数列
 \{J_{t, n}\}_{n \geq 1}
は、以下の 2 つの条件を満たすものとする。
(1) J_{t,1} = t
(2) 任意の n \geq 1 について、
 J_{t, n+1}= t^{J_{t,n}}
が成り立つ。*2


このとき、実数列  \{J_{t, n}\} \quad (n \geq 1) が収束するような  t の上限  T を求めよ。

主張 2 を用いると、
 T \geq e^{1/e}
までは分かるんですけどね。
あと、 n \geq 1 に対し、 J_{2, n} \geq 2^n だから、
 T < 2
も。


時間のあるときに考えてみます。

更新 (2009 年 6 月 3 日)

上の「宿題」について、WolframAlphaで√2^√2^√2・・・ - 小人さんの妄想 で、数値的に
 T = e^{1/e}
であることを計算してくださっているようです。
ありがとうございます!
また考えてみます。

*1:「上に有界な単調増加列は収束する」ので。

*2:主張 2 と表記がずれてて申し訳ないです。。